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第2236話 青風: ◆BlueWmNwYU 投稿日: 2005/05/07(土) 03:00:29 ID:vO0q0TvB
「嘘つき少女」

 人は私の事を「嘘つき」と言う。
別に哀しくはない。だって、本当の事だから。

 小さい頃は従姉弟達と一緒に遊んだ。
二人の名前はさくらとたけし。さくらは同い年の女の子。
吃驚するくらい私と似ていて、でも私と違って活発ではっきり物を言う子。
私の憧れ。なれそうでなれない理想の私。
二才年下のさくらの弟、たけしは何時も姉について歩くお姉ちゃん子。
私の名前がサヨだからオマエはウヨだってあだ名を付けられて、
いつの間にかウヨくんって呼ばれるのが当たり前になったんだっけ。
私達は本当に仲良しで幸せだった。
愚かにも私はそんな日々が永遠に続くって信じてた。

 やがて子供なりに世界が広がり出すと、どうもこの世の中は天国じゃない
らしい事が薄ぼんやりと判ってきた。私達の住んでいるアジア地区は、
世界の真ん中では無かったのだ。何時も他の地区からやってきた体の大きな
子達に言いように荒らされてた。そう言う時の大人って見ているだけだ。
いや、一寸違うな。あれは、全部大人の真似をしてたんだ。汚い大人達。

 でも、私の英雄さくらは黙っていなかった。
みんなを集めて、みんなで立ち上がろうって、私達の遊び場を護ろうって、
凛々しくも立ち上がった。私はさくらに讃辞を捧げるのを惜しまなかった。
何故って?私にはそれしかできなかったから。いくらかの力の弱い子達が
一緒に立ち上がってくれた。小さなウヨ君だって叫んでくれた。
僕たちの遊び場を護るんだ、って。私はこの世の中が楽園になると信じた。
でも知らなかった事も一つ。楽園には必ず蛇が住むんだって事。
 さくらは雄々しく戦った。
ちょっとばかり強引で幼稚な正義を振り回しはしたが、それは私とウヨを
感動させるのには充分すぎた。そのうち他の地区にも少しだけどアーリアや
マカロニーノといった友達が出来るようになった。その頃になると、私の
英雄さくらは家の近くの子達を子分に従えて、お爺ちゃん譲りの武道の腕で
快進撃を続けていたんだ。背中に蛇の視線を受けながらね。

 でも、そのうち様子が変ってきた。さくらにアジア地区を追い出された連
中、中でも腹黒さでは一二を競うエリザベスとフランソワーズがアメリー
を引っ張り出してきたんだ。体の大きな、化け物みたいに力の強いアメリー
は最初はさくらを見て笑ってた。
「なんだよ、このやせっぽちのチビが俺に逆らうのか?」
でもその余裕も一瞬で終わった。次の瞬間には地面に叩き伏せられた
からだ。そして、しばらくはさくらの独壇場だった。
私とウヨのさくらへの崇拝は、この時に頂点を迎えていた。

 でも、私は甘かった。あの化け物、アメリーに有ってさくらに無いもの。
体力と体格を全然見ていなかったのだから。技術と気力で最初こそ優勢だっ
たのが、目に見えて動きが遅くなり、徐々に攻撃を受ける回数が増え、
攻撃を受けては更に動きが鈍くなり、そして最後はさくらは顔面に無数の拳
を受けながら、それでも必死に力の萎えた腕を繰り出していた。
小さいウヨは泣きながら、それでも姉に加勢をしていた。
で、私は何をしていたかって?
怯えていたの。ただ震えていたの。自分はさくらの背中に護られて無傷だっ
たくせに、勇気も誇りも一瞬で消え失せて自分の安全だけを願っていた。
そんな私に蛇がささやいたのだ。
「俺の言う事を聞けば、悪いようにはしない」って。
 蛇の名前はチューゴと言った。
さくらが快進撃をしていた時に、日和見を決め込んでた奴。
あたし達のアジア地区がよそ者に踏みにじられてた時にも動かなかった奴。
そして、アメリーを引っ張り込むようにエリザベスに吹き込んだ奴。
その蛇が私にささやくのだ。
「オマエは悪くない。悪いのはさくらだ。そうだろう?」
私は頷くしかなかった。だって目の前にはさくらが血まみれになって倒れて
居たから。私は死にたくなかった。こんな命でも失いたくなかったから。

 そんな地獄のような日にも次の日と言うものはやってくる。
驚いた事に、さくらをひどい目に遭わせた張本人のアメリーが
真剣にさくらの看病に来ていたりもする。
「な、なぁ。痛かったか?あ、あ、薬要るよなぁ。
何か食べたい物はあるかよ?そうだ、是からは俺が護ってやるよ!」
だったら、最初っから来るんじゃないわよ!あんたなんか大ッ嫌い!
私自身の次にね。
で、私はと言えば、その日から前日迄の全ての私の言葉をひっくり返した。
「ホント、さくらって乱暴者でさぁ。ああなったのも自業自得よ」
「ちょっとは周りの視線ってものを意識すべきよ」
そんな私の言葉を聞くたびに蛇は満足そうに笑った。
私の言葉は彼を近隣の支配者とするのに大いに役に立ったから。
私は髪型を変え、眼鏡を掛ける事にした。
そうしないと、鏡を見るたびにさくらに見つめられるから。

 さくらは最近少し元気になった。私は相変わらず嘘をつき続けている。
そうだ、さくらがもうちょっと元気になったら、ウソを止めようかな。
眼鏡を外して髪を元に戻すんだ。蛇はどんな顔をするだろう。
そして、さくらは昔のように遊んでくれるだろうか?
その日が来るまで、私はずっと嘘つき少女。

解説 青風: ◆BlueWmNwYU 投稿日: 2005/05/07(土) 03:14:02 ID:vO0q0TvB
復帰の挨拶、及び解説のようなモノ

ご無沙汰で御座います。
暫く名入りでの投稿を控えておりました青風にて
ございます。
(まぁ、名無しでは随分あちこちで書いていましたが)
別に最近力作を連投される方が増えたので
触発されて出てきたわけでははっきり言って

   有  り  ま  す

が、気にしないでください。

さて、今回は終戦の前後で如何に朝日新聞が
その言葉をひっくり返したかがソース、、
と言いながら、ただ単に

 性 格 に 難 ア リ の 女 の 子 の
   モ ノ ロ ー グ を 書 き た か っ た

だけでも有ったりします。
云い訳はしません。(なってないし)
ああ、お読みになった方、
出来れば御批評など一言お願い致します。
私を始めとする戯作者もどき(モドキは私だけ?)の
自作への糧となりますれば。

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