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第2312話
ab−pro
投稿日: 2005/08/06(土) 22:17:21 ID:wkDxAsXh
その刻。
彼女。いや、彼女や時には彼は、世界のありとあらゆる場所で、運命の歯車と
して動き続けていた。
独り独りの彼女や彼たちは、もちろん世界の運命なんて実感した事もないだろ
う。
しかし、アマゾンの蝶の羽ばたきが、数時間後に北京で大雨を降らせるように、
彼女や彼は、確実に世界の運命を前進させていた。
今日は、そんな彼女や彼のたちのお話を一つ・・・・
「ふたたび我が社に栄光を。私は古の大ローマ社の栄光の復活をここに宣言す
る!!」
威勢がよいその男の言葉に、多くの人々が表通りで歓呼の声援で応えている。
その歓声の重さに震える妻を優しく抱きしめる青年は、どこかにマカロニーノ
君の面影を色濃く思い出させる青年でした。
「愛故に。
ぼくは愛のためなら全てを投げ捨て事だって出来るのさ」
そう言って、愛おしく妻のなめらかな金髪を撫でながら、この優男の瞳には、
いつになく真剣な力が宿っていました。
「・・貴方」
そう言って青年にしがみつくのは、紫苑と呼ばれる一族の女性です。
ユーロ町でめきめきと会社合併を続けて勢力を伸ばすナッチ社。
ついにパプスブルグ社をナッチ社が買収した時、イタリア社の社長に強引に就
任したムッソリーニ親分も、ナッチ社と業務提携する事に合意したのです。
再び、太古にユーロ町を制覇していたと言われるローマ社の再興という幻想に
酔いしれる社員達。
それ故に、その代償としてナッチ社が求める紫苑一族の排斥という要求に、そ
れほど気に留める人々はいませんでした。
そう、その当事者達を除いて。
「僕はこの家を出る。
紫苑、君を守るためだったら、地位も名誉もどうだっていいのさ」
努めて明るく笑いながら、そう言ってのけるマカロニーノは、実は地球町でも
非常に名の知れた科学者でした。イタリア社での地位や名誉も絶頂を極めていた
マカロニーノは、それを惜しげもなく捨ててしまおうと言うのです。
「・・でも、家を出ると行っても、どうやってこれから生活するの?」
不安で押しつぶされそうになる紫苑。生まれてからずっとローマの間で生活し
ていた彼女の存在が、今まで、次第に自由が無くなるイタリア社にマカロニーノ
が居続けた理由でした。
その彼女が迫害を受けようとしている。
イタリア家の住人らしく、恋愛を人生の一番の至宝と考えるマカロニーノ。時
にはその為にヘンテコな行為を行う事もある彼ですが、今の彼はどこまでも真剣
でした。
「大丈夫さ。
デンマーさんの家の君の叔父さんがこっそり教えてくれたのさ。
今度のノーベル賞、なんと僕が受賞しそうなんだ!
今日の夕方にはラジオニュースで発表されるよ。そうすれば、その賞金で新天
地で生活できるのさ!」
移民に対して、事実上財産の持ち出しを禁止してしまったムッソリーニ親分。
その為、イタリア家を出たくても新天地での生活に大きな不安があったマカロ
ニーノと紫苑にとって、ノーベル賞受賞はまたとない福音でした。
「・・ああ」
一粒の安心の種を得て、マカロニーノにしがみつく紫苑。
そして、その日の夕方。
二人は手を握りあって、福音を聴くべくラジオのスイッチを入れました。
そして、ラジオは「そのニュース」を伝え始めました。
「本日、社長により新たな就業規則が決められました。
ナッチ社との業務提携をよりスムーズに行うため、紫苑の一族を我が社から解
雇します。繰り返します・・・・」
固い声のアナウンサーが淡々とニュースを伝えます。
蒼白になりながら、知らず知らずのうちにマカロニーノの手を握りつぶすかの
ように力を込める紫苑。
しかも、悪意は友達を連れてやって来るものです。
「・・次のニュースです。
昨夜よりナッチ社において、紫苑一族に対する大々的な報復活動が起こってい
ます。ご存じの通り、不法にもナッチ社に対しての紫苑一族が計画していたテロ
がそもそもの原因であり、この凶悪な紫苑一族に対する懲罰は正当なものである
と、先ほどムッソリーニ社長が談話を発表しました・・・」
やがて、ノーベル氏からの電話で賞の受賞を知らされた二人。
もう、二人がイタリア家に残る事は出来ません。
そして二人は、賞を受賞するという口実でイタリア家を離れ、メリケンさんの
家で運命の歯車として動き出す事になるのです。
end
解説
ab−pro
投稿日: 2005/08/06(土) 22:20:13 ID:wkDxAsXh
八月六日という事で。
時間軸が過去ですが、キャラの配役はこれでご勘弁を。
イタリアのノーベル賞科学者フェルミは、妻がユダヤ人であったためアメリカ
に亡命。アメリカでマンハッタン計画の中で世界最初の反応炉を作る事になりま
す。
ノーベル賞受賞を伝えられたその日、イタリアで第二次人種法が発布され、そ
の前日にドイツで水晶の夜が発生しています。
デンマーさんの家の紫苑の叔父は、ニールス・ボーア。イタリアで進むユダヤ
人排斥を心配して、ノーベル賞選考委員だった彼は、規則を破って発表以前に、
フェルミにノーベル賞の内定を知らせていました。
ボーアの母親はユダヤ人。
当時イタリアでは、永遠にイタリアを退去する市民が国外に持ち出せる財産は
50ドルと規制されていました。
あれから一年すぎたんですね・・・・
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