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第2376話 青風 ◆BlueWmNwYU 投稿日: 2005/11/06(日) 11:43:20 ID:79I3usfP
「白き汚れ無き手」

秋の心地よい時期も通り過ぎ、今は日を追う毎に寒い冬へと季節は移って
ゆきます。もちろん、寒い季節にだって楽しい事もいっぱいあるのです。
一方ではそんなお楽しみに縁の無い、余裕のない家も世の中には有ります。
でもきっと大丈夫。地球町の子供達はみんな優しいのですから。

今朝もまた、登校する子供達に差し出される手作りの募金箱。
「恵まれない子供達に愛の手を」
呼びかける元気な声。放り込まれる心づくしの硬貨が幾枚か。
もちろん金額は問題ではありません。その優しい心が大切なのです。
優しい子の胸にはぺたりと白いワッペンを「ありがとう」の微笑み
と共に張ってあげましょう。そう、子供達の胸に輝く白いワッペンと共
に優しい心の輪が学校中に広がってゆくのです。

ニホンちゃんはアメリー君の胸にぺたりと白いワッペンを貼ってあげます。
にっこりと感謝の笑顔に返す返事もまた笑顔。
でも、そんな微笑ましい光景を心配そうに見つめる人影がありました。
ニホンちゃんの弟、ウヨ君です。
ウヨ君はこっそりとニホンちゃんの脇に近寄ると肘を引っ張り、
門扉の陰へお姉ちゃんを連れてゆき、思い切ってこう言いました。
「姉さん。その募金の事なんだけど、なんだか悪い噂を聞いたんだ」

ぴしゃん、という音を立てて勢いよく新聞部のドアを開くと、
ニホンちゃんはそのまま真っ直ぐに奧の机まで進んでゆきました。
人権擁護係の席では、いつもの通りアサヒちゃんが頬杖を突いていました。
アサヒちゃんはニホンちゃんの姿を見ると嬉しそうにこう云いました。
「ハーイさくら。ワッペンの売れ行きはどうかしら?」
ニホンちゃんは掌を机の上にに打ち付けてこう云いました。
「アサヒちゃん!あなた、私を騙したのね!
 あの、あの白いワッペン。集まった寄付のお金どうしてるのよ!」
まくし立てるニホンちゃんに、アサヒちゃんは優しくこう言いました。
「私があなたを騙す訳無いでしょう、安心してよ」
束の間、安堵の表情を浮かべるニホンちゃん。
「最初から、これは寄付だ、なんて一言も言って無いじゃないの」
ニホンちゃんの表情は凍り付きました。

呆然とするニホンちゃんに、アサヒちゃんは畳みかけます。
「アレはね、私達人権擁護係の活動資金になるのよ。
 私達は困っている人の為に働いているでしょう?だから、
 私達への援助は困っている人達への援助と同じなの。判った?」
「ちょっと待ってよ、それじゃ困っている人達への寄付だと
 思ってワッペン買ってくれた人達にはなんて言うつもりなの?」
「あのね、人助けだって只じゃできないの。みんなに配るビラや鉛筆、
 印刷代。そんなモノはどうするの?空から降ってくるのかなあ?」
「じゃ、じゃあ、困っている人達への寄付はどうするのよ?」
「ワッペン買った人達が直接助けてあげればいいでしょ?
 ワッペンにはね“私は困った人を助けます”って書いてあるのよ」

「ねぇ困った人が居てもアサヒちゃん、自分では助けようと思わないの?」
何とか自分の想いを伝えようと必死に食い下がるニホンちゃんに、
アサヒちゃんは薄笑みを浮かべてこう云いました。
「あら、私なら何時もやっているじゃない。先生や保護者達に向かって
 ”あなた達は弱者の為にもっと手を尽くすべきだ”って」
言葉もないニホンちゃんに、アサヒちゃんが更に追い打ちを掛けます。
「さくらだって似たようなモノでしょう?
 いつも痛みを感じない程度の寄付して良い人になったつもりで居るけど、
本当に困った人を助けた事はある?助けた手は綺麗なままじゃないのよ。
助ける方の人だってお腹が空けばご飯食べなきゃいけないの。
助けられる方だって、人に助けて貰わなきゃ生きてゆけない状態って
凄く問題があるのよォ。わかる?」

既に半分涙ぐみ、それでもニホンちゃんはかろうじてアサヒちゃんの
目を見つめます。しばらく時間が過ぎ、それからやっとこう云いました。
「それでも、それでも私は嘘はいけないと思う。
嘘はどこかでもっと大きな嘘になって、別の可哀想な人をつくるから」
絞り出すように其れだけ言うと、ニホンちゃんは新聞部を後にしました。

ぱたん、とニホンちゃんがドアを閉めた後、
アサヒちゃんは心底嬉しそうに目を細めてこう云いました。
「さくら、アンタって本当に素敵だわ」
アサヒちゃんは、少しの間陶酔した表情を浮かべた後、
また、いつものように退屈そうに頬杖を突いて考え事に耽り始めました。
彼女が何を想っているのか、それは誰にも判りません。
もしかしたら、彼女自身にも。

解説 青風 ◆BlueWmNwYU 投稿日: 2005/11/06(日) 11:48:15 ID:79I3usfP
ソースとか解説とかなんとか

さて、今回の元ネタは”イカリング”こと日本版ホワイトバンド
にまつわる様々な悪い噂についてです。
有名人を使って、運動広げて、寄付はしてない。
リングの発注先も肝心の助けなきゃいけないアフリカじゃない、
中国よ、と。出るわ出るわでもう大変です。

詳細はこちら
http://whiteband.sakura.ne.jp/

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