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第2507話 黄 色 い リ ボ ン  ◆JBaU1YC3sE 投稿日: 2006/04/14(金) 16:44:48 ID:ZyvDyB2/
「 何のための出征か 」
 私はトル子。オスマン堂の娘。私の家って昔から周りと揉めてたの。
 特に町の大喧嘩が終わった後、周りの力関係が大きく変わったわ。
 ナッチ会を倒したロシアノビッチが、オスマン堂の隣にある家を次々と乗っ取り始めて、
 よりにもよってウチのイスタンブールの間を縄張りによこせって言ってきたの。
 よくもまあヌケヌケと!

 そんな時、大ニュースが入ってきた。
 遠くのカンコ家にマル教の連中が火事場泥棒に押し入ったんだって。
 アメリー君が苦戦しているらしい。コクレン先生からも応援を求める呼びかけが来た。
 私、喧嘩は嫌だった。それに家を離れられる時じゃなかったもの。
 こんな時に他人のお世話なんかしてられない。
 だけど、喧嘩のない地球町をつくるためには、押し込み強盗を許すわけにはいかないわ!

 そんなことは建前。本当は、アメリー君やコクレン先生に私を助けて欲しいからなの。
 だけどアメリー君がその頃作り始めたグループって、ウチと仲の悪い奴ばっかりなのよ。
 誰も助けてくれなくても、私の家は誰にも渡さないわ!
 だけど、私の力だけじゃ、ロシアノビッチを止めることは・・・
 今は私が誰の味方か、はっきり示さないと。次に押し入られるのはウチなのよ!

 私は力の限り頑張った。相手はチューゴだった。
「トル子、よそ者は引っ込んでるヨロシ!
 チョゴリ、お前がおとなしくマル教に入れば話は終わりアルヨ!」
「いやニダ!トル子お姉ちゃん、助けて!」
「やめなさいチューゴ!チョゴリちゃん、こっちよ!」
 小さい子を庇いながらの戦いだったから苦戦を強いられたわ。
 私は骨折した片腕をさすりながら、家に向かって一人とぼとぼ歩いた。
 喧嘩は終わった。終わったと言うか、マル教に異変があったらしい。
 アメリー家とチューゴ家が取引して、アメリー家以外は解散した。
 結局、強い家が弱い家の命運を決めたんだ。
 マル教の連中は理想だの何だの言ってるけど反吐が出るわ。
 あいつらはマル教になる前からカンコ家の土地を狙っていただけ。
 日之本家の遺産を乗っ取りに来ただけなんだ。コクレン先生も全くの無力。
 みんなが仲良く安心して暮らせるようにって、少しは信じて戦ったのに、
 結局、狙われた家は引き裂かれ、奪われ、踏みにじられていくのね。

 やっと家に近づいた。あれ?家の前に誰かいる。ユーロ班の人みたい。
 ひょっとして、戦友として私を迎えに来てくれたの?
 いや、違う!ロシアノビッチだわ!
「ゴルァ、トル子!帰りがおせえぞ!今日こそいい返事を聞かせてもらうぜ。
 うちから大通りに出るにはお前の家が邪魔なんだよ!この家、俺と共同名義にしろや」
「あんた、ここでも喧嘩を始めるつもりなの」
「だからお前が逆らわずにマル教の配下になりゃ、両家に平和が来るってもんだろ」
「野蛮人!あんたに家を渡すくらいなら死んだ方がマシよ、かかってきなさい!」
「ほう、そんな体でやるってのかい」
 わたしは身構えた。負けるもんですか!
 その時、私の後ろの方で車が停まる音がした。振り向くと、降りてきたのはアメリー君!
「ハーイ、トル子ちゃん。この間は本当にありがとう。お見舞い持って来たよ。
 それと今後の相談をしようと思って来たんだけど、何よ、そこの痴漢は」
「誰が痴漢だ、アメリー!よそ者は引っ込んでろ!」
「いや、よそ者ではなくなるのさ。パパの車の駐車場をオスマン堂に借りられたらね。
 ただお前みたいな押し込みと違って、トル子ちゃんが良ければ、だけどさ」
 アメリー君が含み笑いをして私を見た。
「大歓迎よ!今この場で承諾するわ!」
「サンキュー!それと、こんなストーカーが隣人じゃ無用心だろ。
 防犯カメラも必要だと思うけど」
「ゴルァ!誰に向かって言ってんだ!」
「是非お願いするわ!」
「あれじゃあ益々不安だよ。花火を置いて脅しといた方がいいんじゃないかな?
 モスクワの間まで届く奴」
 この言葉にロシアノビッチは顔色を変えたわ。
「お、おい、アメリーてめえ!」
「黙ってろよ。俺はトル子ちゃんのために言っているんだぜ。
 お前、自分の家とトル子ちゃんの家が同じ天秤に乗っかるのが嫌なのか?
 町を救う教祖のお坊ちゃんよ」
 ロシアノビッチは歯噛みして黙り込んだ。
「ねえアメリー君、本当?」
「本当さ。もちろんオスマン堂のお嬢様が良しと言ってくれれば、なんだけど」
 もったいぶるアメリー君に、わたしは取りすがって言った。
「お願い!それならうちは花火のある家と同じように安全なのね」
「そうさ!トル子ちゃんの家に手を出すのは俺の家に手を出すも同然!手加減しないぜ」
 そう言って、アメリー君は笑ってロシアノビッチを見た。だけど目は笑っていなかった。
「お、覚えてろよ!」
 ロシアノビッチは捨てゼリフをはいて背を向けた。その後ろ姿に言ってやったわ。
「我がオスマン堂は不滅よ!必ずマル教を滅ぼしてやるわ!」
 アメリー君が私の手を取った。
「それよりトル子ちゃん、怪我は大丈夫かい?」
「大丈夫よ。それよりね」
「なんだい?」
「あ、あたし、あたしさ、遠くまで行って、辛いこともあったけど」
 私は俯いた。
「・・・アメリー君と一緒に戦って、良かった。本当に良かった」
 
 そんな昔の話を、私はニホンちゃんに話し終えた。
 日之本家のリクジさんがイラクの家に行ってからもう長いわ。
 ニホンちゃんは今日も青と黄色のリボンをつけてる。
「ニホンちゃん、私わかるよ、ニホンちゃんの気持ち」
「ありがとうトル子ちゃん。もう怪我は大丈夫?」
「やあねえ、とっくに治ったわ。それよりも」
 私はニホンちゃんの髪を撫でた。
「リクジさんが無事に帰ってくること、私も祈ってるわ」

   おしまい

解説 解 説 投稿日: 2006/04/14(金) 16:54:53 ID:ZyvDyB2/
ロシアの海洋進出を塞ぐトルコ 冷戦中は左の地図でトルコの北は全てソ連でした。
http://www.multimap.com/map/home.cgi?db=TR&client=public
トルコの朝鮮戦争参戦とNATO加盟 軍板はさすがですね。
http://mltr.e-city.tv/faq02c02.html#00798
1945年、ソ連の脅迫を受けたトルコのイスメット・イノニュ大統領は
「イスタンブールを渡すくらいなら、よきトルコ国民として死を選ぶ」と答えました。
その直後アメリカが、アメリカで病死した駐米トルコ大使の遺体を
戦艦ミズーリに載せてイスタンブールに届け、熱狂的歓迎を受けたとか。
朝鮮戦争の後、NATO加盟が決まったとき、トルコ政府は
「韓国で死んでいった多くの若者の死が報われた」とコメントしたそうです。
『新月旗の国トルコ』武田龍夫著(元イスタンブール駐在日本総領事)より。
私はイラクへの自衛隊派遣が決まって以来、この言葉を幾度と無く思い出しましたね。

朝鮮戦争後、トルコに配備された中距離核ミサイル ジュピター
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B8%E3%83%A5%E3%83%94%E3%82%BF%E3%83%BC_(%E3%83%9F%E3%82%B5%E3%82%A4%E3%83%AB)
ニホンちゃんの二つのリボン
青 http://chosa-kai.jp/shiokaze.html 北朝鮮にいる拉致被害者への放送を実施中です。
みなさんのカンパで成り立っていますので、どうぞよろしくお願いします。
黄 http://park6.wakwak.com/~blueimpulse/yerrowribon/YerrowRibon.html

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