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第48話
iceman
投稿日: 2006/02/26(日) 02:34:39 ID:6GUX1Taf
「リキとマスオー」@
え〜〜、
世の中には、どうも白黒はっきりしない事が多いのですが、
誰かしにも、分別を付けなきゃならなぬものが、
え〜、あるようでぇ・・・
ところは、日之本家庭園の奥まった一角、木漏れ陽射す道場内。
座して武士は、祖父ニッテイが語りし二人の漢について想う。
一人の名は、リキ。(註1)
いま一人は、マスオー。(註2)
二人は、かつて祖父とこの道場で汗を流し、同じ戦場で共に戦った
こともあったという・・・
「白丁(ペクチョン)め!極東さん、俺は悔しいよ!」(註3)
ヤンキー宅のリングで、赤いサソリにノックアウトされ、控え室の
椅子を蹴飛ばすリキ。
「まあまあ、わしが代わりに奴を懲らしめるから、我慢しろ。」
兄貴分のマスオーはなだめるが癇癪が収まらず、なおもウガイ水を
捨てたバケツや、試し割り用のレンガに当たる。
隣家で親戚筋に当たるマスオーがせっかく敵を取ってくれるという
のだが、北家出身のリキは南家出身の彼を余り信用していない。
(そのくせ、何かと頼ってばかりいるのはどうかと思う。)
「マスさんがそう言うなら、間違いないよ。」
「そうかい、それじゃ南家の力を見せてもらうことにするよ。」
遠征の軍資金を一切賄ってくれるグレート極東が中に入ったので、
ふくれ面のままであるが、ようやく備え付けのティッシュペーパー、
タオル、整髪剤をバックに詰め込み、帰り支度を始めた。
「リキとマスオー」A
「いや〜、マスさん凄いよ!圧倒的な勝利じゃないですか!」
先ほど行われた、赤いサソリ対マスオーのノンタイトル戦の結果に
興奮するリキ。
「2、3発パンチを食らったが、怯まず、じりじりと徒手で相手を
追い詰め、最後はまさかの変則飛び蹴り!あれって何と言う技?」
マスオーは、横を向き、照れ隠しするようにタオルを頭に被って、
「三角飛び蹴りの秘技だが、何度も通用するものじゃないよw」
「それに、リキさんだってちょっと工夫すれば勝てる相手さ。」
鼻先をくじかれたようで興醒め気味のリキだが、自分でも勝てると
言う言葉に飛びつく。
「本当?。昨日の試合で、サソリの殺人パンチにタジタジとなった
俺でもかい。」
「大丈夫だよ。まずリキさんの敗因は相手のペースにはまり、自分
のテンポで戦えなかったからさ。」
「どんな土俵でも、自分で流れを作り、それを押し通すことが大切
ということか。」
「そうだよ。相手に合わせて自分の調子を崩すなんて、それこそ、
三流格闘家だよ。」
然りと頷く納得顔のリキに、マスオーのアドバイスが続く。
「それから、リキさんにはここ一番の必殺技がないね。」
「力士時代の張り手を武器にしたいようだが、あれはこういう風に
チョップで急所のノドや鎖骨にぶち当てたら効くよ。」
立ち上がり、身振りを交えてそう助言する姿に、心のわだかまりが
解け出す。
「同胞ペダルよ、マンセー!」
「帰化したとはいえ、やはり同じ半島民なのだな。」
誰にも好かれた笑顔で、リキはマスオーの手を握った。
「リキとマスオー」B
「本当は、大分違う。」
付き添いである頭突きの金ちゃんと一緒にリングに向かったリキと
入替わり、試合を終えて控え室へ戻ったグレート極東に、マスオーが
先ほどの顛末を話し始める。(註4)
「わしは、本来武道家で質を違えるが、プロレスはショービジネス
だから、ワザと隙を作り相手の技を受けて、観客を沸かせることも
大事だし、時には悪役を演じて、負けてやることも必要なのだ。」
「しかし、虚と実の使い分けをリキに求めるのは無理があるよ。」
「あいつは、一本気で直ぐにカーとなる性分なので、申し合わせの
試合が出来ない。まして己が勝つ事こそ正義だと盲信する奴だ。」
眉を寄せてマスオーに答える。
「それでも、子供のような無邪気さがあって人受けが良く、人気が
決して低いわけではないから。」
「困った奴だが、知らぬ仲ではないので見捨てるわけにも行かず、
ずっとお山の大将気分にさせとおくのが一番なのだろうか?」
「リキも人としての道理をわきまえる分別が付けば良いのだが。」
「仕方ないよ、ジクジクとした嫉み根性がレスラーであるリキを
強くしているのも事実だし。」
五輪の書を節くれ立った太い指でなぞりながらマスオーは、日本に
帰化し、日之本の精神を受け継いだ自分と、日本に移住後も半島しか
愛せず、人の厚意を妬み返すことしかできぬリキとの差は、何処から
生じたのかと思索する。
「ただ、彼の愚鈍な性情が災いして、恨みを買うことが多いだろう
から、遠からず不幸を被ることになるかも知れぬ。」
暗然とした思いを抱きつつ、グレート極東とマスオーは控え室まで
響いてくる遠い歓声を聞いていた・・・
「リキとマスオー」C
「ちょっと、武士!」
誰かの自分を呼ぶ声でぼんやりと気が戻り、道場玄関口を見やる。
「ああ、姉さんか。」
逆光気味に立つニホンちゃんは、長い髪と現代風に着込んだ衣服が
薄ら透けて神々しく、まだ夢の中にいる気にさせられる。
「分別があるとは、・・・どういうことですか?」
唐突で間延びした問いかけに、躊躇しつつ、
「据えた心で物事を判断する適性があることかな。」
「・・・ふぅ〜ん。」
その返事を聞いて、ニホンちゃんの表情が豹変する。
「ゴツッ!」
「ガシッ!」
物静かにスーと進んだ彼女の顔が目前に現れたかと思うと、瞬間、
見事な頭突きが炸裂。続けて、後に回り込んでのスリーパーホールド
が、頭を垂れる武士の無防備な顎に決まる。(註5)
「一度、逝ってよし!」
しっかりと頚動脈を締め付けれ、今度は本当に気が薄れていく。
「セイ!」
暫らくして目覚めた武士の正面に、しなやかに伸びた四肢を使い、
空手の演舞に励むニホンちゃんの紅い道衣姿が映える。
細いながらも充分に鍛えられた体で、鮮やかに足刀を繰出す姿に、
武士の記憶がよみがえる。
「幼少の頃、祖父よりは姉さんにボクはしごかれたんだった。」
道場では性格が一変する姉を想い震える武士。
「どうやら、少し鍛え直さなければならないようね。」
ニホンちゃんの発した声で、道場内の時間が止まる。
お後が宜しいようで、ちょんちょん。
解説
iceman
投稿日: 2006/02/26(日) 02:38:07 ID:6GUX1Taf
「リキとマスオー」註釈
(註1)
ごっつあん関脇から転進、日之本プロレス協会を設立し、ブラウン管の中で、
動くアルプス、赤いサソリ、狂える巨象、タックル王、密林王、赤仮面の怪人、
銀髪鬼、白覆面の魔王、鉄人チャンプと必殺の空手チョップを武器に渡り合い、
憔悴していた日之本家に勇気と活力を与えてくれた、黒タイツのおっちゃん。
(註2)
戦後初の日之本空手道選手権大会で優勝後、アメリー宅を皮切りに地球町内を
駆け巡って47頭もの猛牛の角を折り、如何なる格闘家と対戦せしも、全勝無敗。
皆から「上の手」と賞せられて人気を博し、町内127区に数え切れないほどの
門弟を擁する広域空手道連合極倫会館の創始者で、空手一筋のおっちゃん。
(註3)
グレート極東:ニッテイのリングネーム。選手というよりプロモーターとして
一時期活躍した。
(註4)
おおきに金太:通称、頭突きの金ちゃん。リキやマスオーと同じく半島出身の
レスラー。一本足で打ち込む超爆頭突きが得意技。リキに可愛がられたが日本に
馴染めず、やがて半島に帰った。本名:金太(キム・テ)
(註5)
我羅姑娘という、小学生高学年の少女たちで構成されるプロレスユニットが巷で
人気があるらしい。ニホンちゃんも影響を受けているのかも。
≪引用ソース元≫
2006年3月4日(土)、映画「力道山」日本で上映封切予定。先行して公開
された韓国での興行は大失敗に終わっている。
(正註1) 力道山のこと。戦後のヒーロー、日本プロレス界の父、ナイトクラブ
で暴漢に刺された傷が原因で39歳で逝去。北朝鮮の出身。
(正註2) 大山倍達のこと。マス大山、「神の手」、国際空手道連盟極真会館、
「空手バカ一代」(梶原一騎原作)、1994年、肺癌による呼吸不全
のため死去。南朝鮮の出身。
(正註3) グレート東郷とは無関係。
(正註4) 大木金太郎のこと。本名:金一(キム・イル)、得意技は原爆頭突き、
X固め。南朝鮮の出身。
(正註5) 我闘姑娘(ガトウクーニャン)のこと。元女子プロレスラーさくらえみ
が率いる少女レスラーユニットらしい。
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